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Selfishly

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act4「交差 3」


at the Truth in the Mirror Image


act4「交差 3」
H18,9/23 23:30


「お疲れさんでした。」

基地のゲートを抜けると、そこに見知った顔の知らない人間が立っていた。

「社長からの指示で、迎えにきたモンなんすが。」

咥えタバコで車に凭れて話す印象は、
贔屓目にみても、感じが良いとはいえないはずだが、
おかしな事にこの男がすると、なんだか愛嬌があるように見えるから不思議だ。

迎えに来た人間を不思議な顔つきでみているアルフォンスを横目に
エドワードは 妙な納得した気分で相手に返事を返す。

「それはわざわざアリガトウゴザイマス。

 えっーと・・・。」

「あっ、すんません。
 俺、いや 私は ジャン・ハボックと言います。
 ハボックと呼んで下されば。」

苦労して丁寧に話そうとしていますとわかる物言いに、
エドワードが 苦笑しながら断りを入れる。

「いいよ、無理して丁寧に話してくれなくても。
 俺らのが歳も若いんだしさ。」

エドワードに そう告げられると、言われた本人は
あっけらかんと態度を崩す。

「そうか? 助かるぜ。
 なんせ、堅苦しいのが苦手でさ。」

照れたように頭を掻きながら、ハボックも笑い返す。

「んじゃ、行きますか。
 乗ってくれよ。」

そう言いながら後部座席を開けてくれる。

「うん、サンキュー。
 で、どこに行くわけ?」

車に乗り込みながら、この後の行き先を聞いてみる。
いつもなら、部屋に戻った彼らを ロイが訪ねて来るのが
普通で、エドワード達は ロイに連絡を入れるだけで済ますことが多かった。

「ああ、本社って聞いてるけど?」

エドワードの問いに、不思議そうに返事を返す。

「もしかして、ロイ、今忙しいわけ?」

「ロイ・・・ああ、社長か?
 そうだな、結構 カツカツなんじゃないかな?

 俺が呼ばれた時も、秘書官に睨まれながら仕事してたしさ。」

睨まれていたのは、どうやら 自分で迎えに出て行こうとしていたのを
あの綺麗で怖い秘書にばれたかららしいが・・・。

そんな先ほどあった光景を思い出しながら、
ハボックは ちらりとエドワード達を盗み見る。
やたらと綺麗なこの兄弟は、ハボックにはお初にお目にかかるわけだが
社長の縁戚かなにかなのだろうか?
雇われているにしては、歳が若すぎる気がするし、
それに 社長をファーストネームで呼ぶのも変だ。
ロイは 若くはあるが、財団のTOPで
本当なら ハボック等もおいそれと口をきけるような立場でも
なかったはずだ。
今回の財団のTOPは変り種だとは聞いていたが
それにも関係する事なんだろうか? 

そんな事を考えながらも、エドワード達とたわいもない話を
着くまでの間楽しんでいく。

「へぇ~、ハボックさんって それでロイさんに拾われたんですか?」

兄よりも、人なっこそうな弟、アルフォンスが感心したように
話に相槌を打ってくる。

「そうなんだぜ。
 もともと軍にいたんだけど、その時の上司がどうしようもない奴でよ。
 無能なくせに、やたらといばっる奴で、
 あんまり無理ばかり言うんで、言い返したら
 不敬罪とか何とか騒ぎ出して、危うく 牢屋に放り込まれて
 裁判にかけられるとこだったわけ。

 んで、ほとほと軍にも嫌気が差してきてて
 もう どうでもいいかと思ってたら、
 顔見知りのヒューズさんが来て、俺の就職口を見つけてくれた上
 無罪放免にしてくれたってわけ。」

いや~、助かったわと、
 まるで道に迷って教えてもらった程度に気軽に話をするが、
本当は 結構、厳しい立場に立たされていたのだろう。
軍は 完全な縦社会で、規律には厳しい。
上司不敬罪と言う名で、多くの粛清が繰り替えされる。
大げさに言えば、ハボックは 下手をすると
こうやって日の目を見ないで、牢屋の中に放り込まれ続けている事も
ありえたわけだ。
因縁は この世界でも働いていて、
色々な道が交差して1つの方向に導いていく。
居るべき所に居れるようにと。

なら、自分達はどうなのだろう。
この世界の因縁関係の枠からは はみ出しているはずなのだが。
それとも もしかしたら、こちらに落ちてきたときから
この世界の枠に組み込まれていっているのだろうか?

そうやって組み込まれ、少しずつ こちらの世界に馴染んで?
もとに居た世界とは 離れていく?

世界は完全なる調和と均衡で作られているわけではない。
人間達が思うより、もっと大きく大雑把。
よく言えば 包容力がある。
水面に落とされた小石が、波紋を広げるのは一瞬で
その後は静寂が戻るように、エドワード達が この世界に投じられた事等
微々たる事でもないのかも知れない。

そんな考えに浸りながら、エドワードは その現実に、
胸の奥が チリチリと痛むのを痛感した。
横に居るアルフォンスを見ると、楽しそうにハボックの話に聞き入っている。

アルフォンスは、この世界に来てからも
いち早く馴染んで行っている。
エドワードが居るからの安心感なのかも知れないが、
少なくともエドワードより、この世界で生きている事を
さほど 難しくは考えていないようだ。

『もしかしたら、1番還りたがっているのは
 俺なのかも知れないな・・・。』

自分の意志で扉をくぐって戻ってきたのに、
その実は、還りたくて仕方が無いのは自分だという現実は
エドワードの心に重く圧し掛かる。

「・・・兄さん!
 ねぇ、兄さんってば。」

呼ばれてはっとなり隣を見る。
アルフォンスが、何度呼んでも返事をしないエドワードに焦れたような表情をしている。

「あっ・・あ、なんだアル?」

「なんだじゃーないよー。
 何回も呼んでも返事ないしさ~。

 もう、本社に着くってハボックさんが。」

そうやって、車の前に視線を向けるアルフォンスにつられた様に
エドワードも 車が向かっているだろう方向をみる。

近代的な街並みの中でも 一際 大きくそびえるビルが
まだ距離は結構あるだろうこの車からも見えてくる。

エドワードは、妙なデジャブーを感じながら近づいてくるビルをみる。

威圧を感じる建物に、エドワードがロイを訪ねて行った昔の感覚が
今、感じているものと近いような気がする。
懐かしいような、始めて感じているような曖昧な感覚は、
現実と過去との境を微妙に揺らしている。

エントランスをくぐり、扉の前に車を止めたハボックが
後部座席を開ける。

「んじゃ、車を置いてくるんで
 ここで待っててもらえるか?

 始めての人間には、わかりにくいだろうから案内するわ。」

車ごとハボックがさり、二人だけになると
自分達が かなり浮いている存在なのを痛感する。

きっちりとした身なりで、忙しそうに扉をくぐる人々も
何故、ここに 子供がいるのかと思っているのだろう訝しそうな目で
通り過ぎる時に 視線を寄越してくる。
先ほどまで はじゃいでいたアルフォンスも、
居心地悪そうに押し黙って、静かになってしまった。

「すまん、待たせたな。」
戻ってきたハボックが声をかけてくれた時には
二人とも 思わずホッと気が抜けた。

「なんだか、気圧されちゃいますね、ここって。」

アルフォンスが、小さめの声でハボックに話しかける。

「うん?
 ああ、まあ 初めての人間には そう思えるかもな。
 なんせ、欧州の大財閥の本社だからな。

 俺も、最初は 足を運ぶたびにビクビクしちまったよ。」

明るく笑って そう語るハボックに助けられて
アルフォンスは、持ち前の好奇心を発揮させる。

「そう言えば、ハボックさんは
 この会社で、どんな仕事をしてるんですか?」

皆が 待つ場所より、やや奥まった所にある豪奢な扉の前まで行くと
ハボックが 横にある操作ボタンを押す。

「ああ、俺は この会社に雇われたっちゅうより
 社長個人に雇われて、護衛みたいな事をしてるのさ。」

「護衛?」

「ああ、SPって言うんだけど。
 社長のプライベートの訪問も付き添ったり
 運転手兼ねたりと色々だ。」

話している内に、扉が空いて ポッカリと空間が現れる。
3人は その中に納まると、エレベーターは自動的に動き出す。

「これ、社長のフロアーに直接いけるんで、
 手前じゃなくて、こっちを利用した方が早いからな。」

上昇が止まって開かれた扉の向こうには、
ホテル顔負けのホールが現れる。

受付の女性なのだろうか、
横にあるBOXからにこやかに出てきた綺麗な女性が
愛想良く声をかけてくる。

「お帰りなさい、ジャン。
 社長が お待ちかねよ。」

「サンキュー、エリザ。
 んで、社長から聞いてると思うけど
 こっちが、エドワードで こっちがアルフォンスな。」

「わかったわ、ちゃんと皆にも連絡しておきます。

 始めまして、エドワード様、アルフォンス様。
 
 私が、この階の案内のチーフをしておりますエリザベートと申します。
 何か御用がございましたら、遠慮なくお申し付け下さいませ。」

「こんにちは。」
「宜しくお願いします。」

二人して、頭を下げて挨拶をすると、エリゼは 優しそうな微笑を見せて
3人を案内する為に歩き出した。


「すっげー美人だろ?
 ここの受付とか秘書って、美人ばかりでよ。
 来るだけで目の保養になるぜ。」

嬉しそうに ヒソヒソと二人に囁いてくるハボックが
この女性を気にいっている事が 先ほどから交わされている会話の雰囲気からも
伝わってくる。

案内も終わり受付に戻ろうとしたエリゼに
ハボックが 誘いをかけている。

「今度、良かったら食事でも行かないか?」

「ありがとうジャン。
 でも、今は会社も忙しい時期に入ってるんで
 また、落ち着いたらでお願いするわね。」

そう告げながら、颯爽と歩き去って行く。
その後ろ姿を、ハボックはガックリしたように見送る。

「振られてる・・・。」
情け容赦ないアルフォンスの呟きが、耳に届いたのか
ハボックが情けない表情で、振り向く。

「言うな!
 ここの女性は美人ばかりなんだけどよ。
 どうやら理想が高いようでさ、
 ちっ~とも振り向いてくれないのよ・・・。」

がっくりと肩を落としながら、開けた扉の中に入っていく。

「仕方ないよね。
 なんせ、社長があれじゃあね。」

「まぁな。
 あっちでも同じ環境になってたんだから、
 大体予想はつくな。」

子供ながら同情心を込めて、先に行くハボックの後ろについて入る。

広い部屋の中は、さすが財団TOPの部屋だけはあると感じさせられる作りだが、
豪奢になりすぎず、品良くまとめられている内装が感じが良い。

「お帰りなさい、ハボック。」
広い室内に1つだけ設置されているデスクで仕事をしていた女性が
凛とした声で、ハボックに声をかけてくる。

「ただいま戻りました、ホークアイ秘書。
 こちらにお連れしましたのが、エルリック様方です。」

「ご苦労様でした。
 あなたは、下がって宜しいです。

 エドワード・エルリック様、アルフォンス・エルリック様ですね?
 私が、秘書のホークアイと申します。
 
 社長がお待ちかねでございますので、どうぞ こちらに。」

キビキビした動作で、奥にある扉に近づく女性の姿に
アルフォンスは感嘆の眼差しを、
エドワードは やはりと妙な納得を浮かべて見る。

「社長、エルリック様方が お着かれになられました。」

ノックをしながらそう告げると、中からは瞬時に返事が返る。

「入れ。」

そう返事が返って失礼しますと礼儀正しく1礼して部屋に入っていく
彼女をよそに、エドワードは 昔から変らぬふてぶてしい態度で入っていく。

「よお。」
「こんにちは、お久しぶりです。」

それぞれの人柄に合った挨拶をしながら入ってくる二人組みを
ロイは、嬉しそうに眺める。

「久しぶりだが、変らず元気なようで安心したよ。」

デスクから立ち上がりソファーの方に招く。
エドワードは妙な違和感を感じながら、
招かれたまま、ソファーに腰をかける。

「君達に送ってもらった報告書をもとに分析をした回答が出てね。
 今は その件で少々慌しくて申し訳ない。」

「ああ、で上手く進んでるんか?」

エドワード達が送った報告は、体内の薬物に関するデーターだった。
手に入れた時には不完全な状態だったから、
一応、自分が考えた考察を含めて書いておいたのだ。

「いや、分析は出来たのだが その活用までには至ってない。」

「えっ、なんで?
 あれはそんなに難しい事じゃないだろう?」

ロイが専門家に言われた事を話すと、エドワードが考察を返す。
仕事の話に熱中する二人をよそに、アルフォンスは
部屋の観察に勤しんでいた。
しばらくすると、トレーにお茶を乗せたホークアイ秘書が戻ってくる。

「失礼します。
 アルフォンス様でしたね、宜しかったらどうぞ。」

議論に夢中になっている二人は、気づいてもなさそうなので
ホークアイは、手持ち無沙汰そうにしている少年に声をかけた。

「ありがとうございます。 
 わぁ~、ケーキまで!
 すっごく美味しそうですね。」

嬉しそうにニコリと笑いながら返事を返すアルフォンスに
ホークアイもつられて笑顔を返す。

「この街では有名なケーキ屋のものなんですよ。
 お口に合えばいいんですけど。」

「あのぉ~ホークアイさん。
 僕にまで敬語を使ってくれなくていいです。
 アルって呼んでくださいね。」

ニコリと微笑む姿は、幼さとあどけなさが混じっていて
思わず胸が温かくなってくる。

「そうはいきません。
 社長の大切な方を、簡単には及び出来ませんわ。」

「いえ、ロイさん・・・社長に雇われているのは兄のほうで
 僕は付き添いなんで、本当に気を使わないで下さい。」

にっこりと駄目だしのように微笑まれて告げられると
さすがに規律の厳しいホークアイも、頷いてしまう。

「わかりました。
 では、私の事はリザと呼んでくださいね。」

「はい、リザさんですね。
 これから、兄共々迷惑かけるとは思いますが
 これからも宜しくお願いします。」

リザとアルフォンスが友好を深めている横では
議論に一段落したのか、ロイが新たにメモ書きをし
エドワードが、横でケーキを食べているアルフォンスを見る。

「あっ~、お前なんだよ。
 一人だけ美味しそうにケーキ食べて。」

「何今更言ってるの。
 声をかけても、気づかなかったのは兄さんじゃないか。」

あきれたように言うアルフォンスの言葉に
少々、バツの悪い面持ちで押し黙る。

リザは そんなエドワードにクスッと笑みを浮かべ
エドワードにも、ケーキを勧める。

「どうぞ、エドワード様も。」

声をかけられたエドワードが、妙な表情を浮かべて考える。
そして、何かに気づいたのか 納得するように頷くと

「あ、俺の事はエドワードかエドでいいぜ。
 様なんて柄でもないからさ。」

そうはっきりと告げてくる。

「でも・・・。」と戸惑うリザの様子に

「なぁ、ロイ。
 別にエドワードでいいよな。」

と隣で忙しそうに書き込みをしている上司に声をかける。

「ああ、君が構わないなら 私も構わない。」

顔も上げずに そう答えるロイの了承をとりつけて、
エドワードは リザの方に振り向くと

「って事で、俺の事はエドワードでOKだから。」

強引なエドワードの展開にも、
不思議な事に嫌な気持ちは浮かばない。
エドワードには、そんな不思議な魅力があるようだ。

「わかりました。
 では 私の事はリザと呼んでくださいね。」

「リザ・・・・、うん じゃあそう呼ばせてもらうな。
 あっあと、敬語とかも必要ないから。
 俺らのが下なんだからさ。」

同意を得るようにアルフォンスを見ると、
アルフォンスも 嬉しそうに頷いている。

そして、頂きますと挨拶をしてケーキを頬張る兄弟二人を眺める。
『なんだか、社長が気にされているのもわかる気がするわ。』

まだ、歳若いと言ってもおかしくない年齢の二人なのに、
その場を押さえるような存在感がある。
特に兄のエドワードには、思わず場を従えさせえるような雰囲気があって
なんとなく、反論する気がなくなってくる。
そんな不思議な兄弟だったのだと、感心した。

そんなやりとりを3人がしている間にも、
ロイは どこへやら連絡をしていたようで
受話器をおくと、エドワードに声をかけてくる。

「エドワード、担当の専門家が君の話を聞きたいそうだ。
 少し、着いてきてくれるかな。」

「わかった。
 アルも一緒でいいよな。」

「ああ、そんなに時間は取らさないと思うんで。」

そう言って立ち上がる二人にアルフォンスは返事を返す。

「兄さん、そんなに時間がかからないなら
 僕は ここで待ってるよ。」

「アル?」

「リザさんと、お話してるから行っておいでよ。」

そう言いながらも、ケーキを食べるのを止めないアルフォンスに
エドワードは 少々不服そうな表情を浮かべたが
わかったと返事を返して、ロイと出て行く。

「よかったの?
 一緒に行かないで。」

気を使うように声をかけてくるリザに
アルフォンスは気にした風もなく頷いて返す。

「いいんですよ。
 それに、少しで済む訳ないですから。
 兄さん、熱中しだすと 時間を喰うから。
 僕は しばらく待ったら、先に部屋に戻ります。

 すみませんが、戻ってきたら そう伝えておいて下さい。」

兄の行動を熟知した発言をする大人びた口調に
リザは また、感心させられた。

見た目は まだ子供のようなのに
中身は 思量深い大人のような面が見え隠れする。

『一体、どんな人生を過ごしてきたのかしら・・・。』




結局、エドワード達が戻ってきたのは すでに夕刻と呼ばれる時間を
過ぎての事だった。
アルフォンスが予想したとうり、エドワードが専門家との話しに熱中し
慌てて戻ってきた時には、アルフォンスはとうに居なくなっていた。
リザからの伝言と、ハボックが送っていた事を聞き
バツが悪いのと、無事に戻ってる事に安心もした。

家に戻ろうとしたエドワードに、
ロイが 折角だから食事にと誘い、
アルフォンスも誘おうと電話すれば、
自分はグレイシアさんと食べたから
そっちはそっちで食べて来いとの返事で
結局は ロイの就業後に出かける事にした。

ロイが急いで仕事を片付けている間、
エドワードは ぼんやりと その姿を眺めていた。
そうやって、仕事をするロイの姿を落ち着いて見ていると
何故か、最初に入ってきた時の違和感を感じた事が浮かんできた。

別段、ロイに変化があったというのではないはずだ。
こうして見ていても、別に変った所はない。
でも、エドワードには あの時、確かに違和感を感じさせたのだ。
それがなんだったのだろう・・・とぼんやりと思考していると
扉がノックされる音が響いてくる。

「おーい、ロイいるか~?」

その声で、中にいる二人とも 誰がやってきたのかを察した。

ロイは 書き物をしていた手を止めて、
嫌そうな表情で手を組んでは、入ってくる人物を眺める。

「お前かヒューズ。」

「なんだ、もっと嬉しそうな顔しろよ。
 せっかく、この辺鄙な所まで訪ねて来てやったんだからさ。」

「そう言いながら、日に何度も顔を出しては
 仕事の邪魔をしているお前に嬉しそうな顔ができるか。」

『嬉しそうな顔』・・・、
その言葉を聞いた時 エドワードは ふと気がついた。
そうだ、ロイは 入ってきた時に 嬉しそうな表情を浮かべて
迎えてくれたのだ。
もちろん、嫌な表情よりは 嬉しそうな表情を浮かべてもらえる方がよいに決まっている。
が、エドワードを いつも迎えてくれていた男は、
いつも、たまにしか現れないエドワードを非難するような
嫌味な表情を浮かべて迎える。
そして、久しぶりなのを刺すような嫌味な笑顔と言葉で
エドワードを迎えるのが常だった。

そんな些細な事さえ覚えてては、違和感を感じる自分が嫌になる。

「よぉ、エド。
 相変わらず元気にしてるようだな。」

許可もなく どさりと前のソファーに座るヒューズに声をかけられ、
エドワードは 今の世界に意識を戻す。

「ああ、あんたも相変わらず元気そうで。」

「おうよ!
 俺が元気でなくちゃー、
 暗いアイツを励ます奴が居なくなるもんな。」

「暗いアイツって・・・。」

どこかに そんな人物が居ただろうか?
不思議そうに首を傾げるエドワードに
あちゃーと言う様に手の平で顔を撫でる様を見せ、
ヒューズは 暗さの元凶となるエドワードにわからせるように話す。

「アイツったら、ロイに決まってるだろうが。

 もう、お前が戻らない間は 不機嫌だわ、心ここに在らずだわで
 ほとほと 周りも扱いにくいったらないで困ってるんだぜ。

 もうちっと、こまめに戻ってやれよ。」

「ヒューズ!!」

ロイが 慌てたように怒鳴り声を上げる。

「おお、怖い 怖い。
 怒られる前に退散するか。

 んじゃ、エド
 こっちに居る間に、また飯でも食いにいこうぜ。」

そう言いながら、ヒラヒラと手を振りながら部屋を出て行く。

残されたエドワードは、思わずと言ったようにロイを見る。

まるで悪戯を知られた子供のようにバツの悪そうな顔でそっぽを向き
渋々と仕事に取り掛かる。

「不機嫌って・・・、
 あんたは もう、大人なんだから
 周囲に迷惑かけるのはやめろよ・・・。」

あきれたように諭すエドワードに
ロイは、俯きながら ブツブツと不平を言う。

「しかしだな、君は連絡は なかなかしてこないし
 あったとしても、ホークアイ秘書官へ言付けで終わらすか
 郵送での報告書ばかりで・・・。

 たまには、私に直接連絡をしてくれても
 いいんじゃないのか。」

『鋼の。
 連絡は こまめに、私に直接してきなさい。』

そう言って不貞腐れた男が そう言ったのはいつだったか、
何回あったことなのか。

思考を探るような心の動きとは別に
頭では 今の目の前の男の行動を追っている。

「いや・・・でも、あんたは忙しい立場だし。
 俺ら、時差があるんで 迷惑になるといけないだろ。」

そう躊躇いながら言い訳じみた事を話すと、

ロイは エドワードに視線を合わせて告げてくる。

「迷惑なんかじゃない。
 いつでも、構わない。

 自宅の電話もおしえてるだろ?

 連絡も貰えない方が、数倍も心配に決まっている。」

「いや・・・、そんなに心配してもらわなくても・・」

大丈夫だと続ける事が出来なかった。
余りに ロイが哀しそうな表情を浮かべるから。

「エドワード・・・・。
 心配もさせてもらえないのかな、私は。

 それはそれで、辛いものがあるもんだよ。」

低いトーンで語られた言葉には、
哀しみと、少しの怒りが籠もっているように聞こえる。

「・・・・ごめん。
 これからは、気をつける。」

素直に謝るエドワードに、ロイの方が驚いた。
もう少し、何か反発をされるかと予想していたのだが・・・。

「いや、わかってくれたらいいんだ。

 迷惑なんて全然かからないんで、
 いつでも、連絡だけでもしてきてくれ。」

慌てたように取り繕うロイの言葉にも
エドワードが 傷ついた様に頷くのを見て
そんなに きつい事を言ったつもりもないのにと
ロイの方は 不思議な面持ちでエドワードを眺める事になった。

ロイは 大人しくなったエドワードを横目で窺いながら
心の中で ため息を吐き出す。
エドワードは、時たま こちらにはわからない反応を返す事がある。
特に どうしたと言うわけでもない事に 酷く傷ついた表情を浮かべる。
一体、どんな思い出と関わっている事柄なのか
ロイには予測がつけようもない。
エドワードに、今を見て欲しいと思いながら
過去を振り返らせる言動をしているのが自分だと言う皮肉。
募る苛立ちは、些細な事で溜まっていく。
ロイは 再度、心中で深く重いため息を吐く。





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